9月1日の「防災の日」を目前に控えた8月28日、上越市で行政や住民らが参加した大規模な訓練が行われました。日本海側で発生する津波の特徴を想定したものです。訓練で得られた教訓と課題を取材しました。
避難指定場所も津波で浸水することがわかった!
上越市では、去年2月に津波の新たなハザードマップを作りました。2011年に起きた東日本大震災の後に新潟県の津波浸水想定が見直され、各自治体に示されたこを受けて作成されたものです。
今回の訓練は、その新たなハザードマップを使って初めてとなる訓練で、警察や消防をはじめとして、鉄道会社や住民らが参加する大規模なものになりました。
【上越市危機管理課 柳時夫危機管理指導官】「5分10分程度の中でどれだけ逃げられるか、そういう所を住民にも体験してもらい、問題点を明らかにして今後の訓練に生かしてもらいたい」
訓練の舞台となるのは谷浜・桑取区です。この地域一体は海のすぐそばに住宅地があり、国道、鉄道、そして山側にも宅地が広がっています。谷浜・桑取区にある長浜には、120世帯342人が暮らしています。
長浜町内では、これまで海からおよそ200メートル離れた長浜会館が避難場所として指定されていました。しかし去年作り直されたハザードマップでは、この会館も浸水すると想定されました。
【長浜町内 坪田剛会長】「じゃあ、俺らどこに行けばいいのかってなっちゃう。人を助けるまでいければ一番いいですけど、まずは自分の命を大事にして、それから様子を見てまた改めて動く」
さらに長浜町内は、沿岸部およそ2キロにわたり住宅が広がっているため、一か所に避難するのは困難です。
ハザードマップを作るにあたり、上越市の津波の発生頻度や沿岸部への津波到達時間などを調査した1人が、新潟大学災害・復興科学研究所の卜部厚志教授です。
【新潟大学 災害・復興科学研究所 卜部厚志教授】「日本海側は、陸からすごく近いところに自分の町に被害を及ぼす津波を起こす活断層があると考えられている。5~10分程度で津波が来てしまうので、逃げる時間がないのが大前提。現実的には、近くで皆さんが知っていて、真っ暗でも行ける場所...」
新たなハザードマップでは、一刻でも早く安全な場所へ避難するために、地元の人が知っている高台や寺の境内など、9か所が一時避難場所して指定されました。
たった5分程度で皆が高台に避難できるのか?
【上越市危機管理課 柳時夫危機管理指導官】「まずはハザードマップに書かれている津波の到達時間。その時間を1つの目安として、昼間の条件のいい時で実際どれくらいの時間で避難できるのか...」
訓練は、上越沖を震源とする地震が発生し上越市で震度6強を観測。上中下越に「津波警報」が発表された想定です。
訓練には、上越市内を走る「えちごトキめき鉄道」も臨時列車を使って参加。地震発生を受けて列車が緊急停止し、駅員が乗客を高台に避難させました。
【えちごトキめき鉄道職員】「改めて津波がいつ襲ってくるかわからないので、指定された避難場所は確認しなければならないと感じた」
2時間に渡る大規模な訓練―。無事に終わった一方で、課題も見えてきました。
まずは高台への避難です。坂道が急で、高齢者や要支援者らは津波が到達するとされる5分から10分の間にどう避難するかのか。
【住民】
「特に家から出られない人は心配。うちの町内にも結構いるそういう人達が大変」
「今は私たちもいいけど、この先、年をとるとどうなるか。体が動かなくなるとどうなるか」
また、沿岸部に住む人たちが高台に避難する際、どうしても線路を越えていかなければなりません。線路沿いには安全を確保するため柵が設置されています。緊急時に備え柵が開く場所もありますが、一体どのタイミングで誰がこのカギを開けるのか...。
こうした課題について卜部教授は、鉄道事業社などの理解は必要としながらも解決策はあるとアドバイスしています。
【新潟大学 災害・復興科学研究所 卜部厚志教授】「道路管理者や鉄道管理者は踏切の数を減らしたい。その解決策として、非常時だけ使える扉の設置も有効。谷浜・桑取区には、山の裾野に少し高くて平らな地形があるので、そこに少しだけ手を加えて登りやすいように階段や手すりをつけるなどの工夫ができる」
日本海に面する新潟県では、大きな地震がくると「早い時間で津波が来る」ということを頭におき、避難すべき高台や建物がどこにあるかを日常的に確認しておくことが「命を守る」ことに繋がります。
今回取材した上越市の防災訓練では、みなさんが「どこに避難すべきかをしっかり把握している」のが印象的でした。
【新潟県で想定される津波の特徴】
(1)地震後5~10分程度で津波が来る。
(2)津波は川も遡上する。
(3)じわじわ浸水し、水がたまり続ける。
【避難方法】
(1)大きな揺れを感じたらまずは逃げる!
情報を待っているとあっという間に5分たつ。
(2)建物の少ない地域では、近くの高台への避難
(3)場所によっては車の活用や自宅での避難も検討