「HPH (エイチ・ピー・エイチ)」 って、皆さんご存知ですか?
きょうは「HPHとその取り組み」について
新潟市秋葉区の下越病院の医師で、HPH委員長を務める
岩田 真弥(いわた・まさや)先生にお話を伺います。
Q,今回のテーマである「HPH」について、そもそも「HPH」とはどういうものなのですか?
「HPH」とは、「Health Promoting Hospitals and Health Services」 の略で、
日本語だと健康増進拠点病院・ヘルスサービスということになります。
簡単に言うと “健康増進に頑張る病院” という感じでしょうか。
世界保健機関(WHO)が,医療機関での健康増進活動を推進するためにこのHPHを提唱していまして、
現在世界中で取り組まれています。
1980年代後半に国際HPHネットワークができ、2015年に日本HPHネットワークが発足しました。
Q,世界的には1980年代後半にあったのですか。
はい、日本では最近になりますが、日本では4年前からですね。
2017年9月に、当院のグループがHPHネットワークに加盟しています。
現在日本では114の施設が加盟していますが、新潟県内で加盟しているのは当院のグループだけです。
Q,“健康増進拠点病院” ということですが、具体的にはどのような取り組みをされているのですか?
みなさんの病院のイメージは、対象が患者さん、行うことは治療、というものだと思います。
HPHの病院では、対象が患者さん以外にもそのご家族、さらに病院で働く職員、さらに地域住民にまで活動を広げて、そこに健康への働きかけを行っています。
① 患者さんには病気にあわせた食事や運動のご提案、
お酒やタバコを減らす取り組みなどを行っています。
② 病院職員は、多種多様なことをやっています。
例えば、毎朝みんなで体操をしたり、エレベーターではなく階段を使ってもらうために、
職員から健康標語を募集してそれを院内に掲載する取り組みをしています。
③ 地域住民の方に対してですが、当院では、地域住民の自発的な健康増進活動をサポートし、
健康な地域づくりを共に行うための「健康友の会」というものがあります。
この友の会でそれぞれの地域ごとに班を作って、みんなで食事をしたり、
手芸などの趣味をみんなで楽しんだりしています。
また高齢の男性の方を対象にした料理教室を行ったり、
健康チェック・相談会や病院職員による健康講話を行ったりしています。
結構和気あいあいとした雰囲気で、スタッフも楽しんでやっています。
また、地域のスーパーや公民館、あるいは高速道路のサービスエリアなどでテントを立て、
血圧測定、骨密度チェック、健康相談なども無料で行っています。
Q,本当に様々な取り組みをされているのですね。
やっていく上で何か重要視しているものはありますか?
この様々な取り組みの際に大事している視点が、“健康の社会的な要因” です。
Q,“健康の社会的な要因”ですか? 詳しく教えていただけますでしょうか。
はい。これまでの医学の膨大な研究の中で、健康には社会的な要因も大きく関わっているということが分かってきています。例えば、
・ 職業が非専門職になるほど平均余命が短い
・ 雇用状態が不安定なほど慢性疾患や精神失調になりやすい
・ 仕事がコントロールしにくいほど心臓病になりやすい
・ 野菜や果物の供給量が低いほど、心臓病で死亡しやすい
・ 孤独な人ほど死亡率が髙い
・ 貧しいほど酒・タバコに依存しやすい
という傾向がみられます。
また高齢者の方を対象にした研究では、低所得ほど、転びやすい、うつ状態が多い、介護が必要になりやすいと言われ、
さらに低所得の方ほど死亡率が高い、というデータまであります。
経済格差が健康格差につながっています。
そういう社会的な要因にも気を遣いながら、健康への介入を行っています。
Q.今目の前にある病気や怪我を治すことだけでなく、生活に密着した部分も考慮して接しているということですね。
HPHのこれまでの活動を通して感じたことなどあれば教えてください。
健康にとって何が大事か分かることと、その人がそれを実際に継続的に取り組めるかの間には、
大きなハードルがあるということです。
健康にとって、塩分の摂り過ぎ、お酒の飲み過ぎ、タバコが悪い、健診を受けた方がいい、
ということは皆さん嫌というほどどこかで聞いているし、分かっているはずです。
でもそれをやめられない。
「お酒の飲み過ぎはダメですよ」「タバコはダメですよ」「健診を受けて下さい」、
と言うだけでは、十分な効果はありません。
また、本人の努力だけでは何ともならない、
社会的な要因が重大な影響を及ぼしていることもあるかも知れません。
過労・ストレス・孤独・経済的困難さ。それらはなかなか自分の力だけでは解決できませんので、
アプローチが多岐に渡って大変であると感じています。
Q.う~む。社会的な要因はすぐに解決できるわけではないですし、
様々な視点から見るというのは、難しいですねことですね。
他に感じているのは、“患者にならない患者さん”が多いということです。
例えば、血圧が高い、身体の不調があるという症状を自覚していても、
健診を受けない、病院を受診しないという人がいます。
私たち医者は、病院にお越しになった方を「患者」さんと認識して
、病名をつけて、検査や治療を行うことはできますが、病院に来ない病気の方を見つけることは不得手です。
そういう “患者にならないならない患者さん”が多いということが分かってきました。
Q,HPHの取り組みを通し、色々なことが分かっているのですね。
今後目指すところを教えてください。
それはもちろん、地域の皆さんの健康寿命の延伸、これに尽きます。
そのためにはこれまで行われていたような健康・保健指導に加えて、
もっと社会的な要因にまで踏み込んだ関わりが必要になってのではないかと感じています。
社会的な要因への介入は病院だけの力では限界があるので、
様々な地域の個人・機関・行政と連携していく必要があります。
地域と積極的に関わって、“患者にならない患者さん”を見つけられればと思います。
またHPHのような健康への視点をもった医療機関が、
もっと増えるような活動も行っていければと思いますし、
将来的には、行政の全ての政策に健康への視点が配慮されるようになればいいな、とも思っています。
Q.病院だけではなく、みんなで一丸となって取り組んでいくことが必要ということですね。
では最後に健康寿命の延伸へ、リスナーへのメッセージをお願いいたします。
はい。病気を抱えた皆さんを支える私達病院職員ですが、
同時に病気にならないで幸せに過ごせるような視点をもって、取り組んでいきたいと思っています。
全てにおいて完璧で健康的な生活習慣の方なんていません。
そして健康だけが絶対的な価値ではないかもしれません。
しかし、しっかりと健康について考えれば、もっと皆さんの普段の生活が良くなって幸せに過ごせるはずです。
ということで、まずはなにか健康のことやほかのことでも気になることやお困りのことがあれば、
是非遠慮なくお話を聴かせてください。
健康寿命の延伸に関しては「健康の社会的な要因」を考えることがダイジ、ということですね。