今回は「ロコモティブシンドローム」通称「ロコモ」に関しまして、
新潟大学医歯学総合研究科特任准教授の今井教雄先生にお越しいただきました。
Q, まず先生のご専門について教えてください。
はい。私は整形外科医で、主に股関節外科と骨粗しょう症を専門にしています。
Q,どうして整形外科の道を選ばれたのですか?
私は小学校の頃からずっと野球をしていて、捻挫をしたり肘が痛くなったり、突き指をしたときに、頻繁に整形外科にかかっておりました。
治してもらっているうちに、私もこの道に進みたいな、ということで今に至ります。
Q,本日のテーマ「ロコモ」、「ロコモティブシンドローム」というのは名前を聞いたことがある方は多いと思いますが、改めてどういう症状が出るものなのか教えていただけますか。
はい。ロコモティブシンドロームは筋肉、骨、関節といった運動器障害による移動能力の低下状態を指します。
自由に歩いたり移動したりするのが困難になり、自分のやりたいことができなくなり、
生活の質が下がってしまいます。
その結果転倒しやすくなり、それが要介護者・要支援の原因にもつながります。
Q,この番組では「新潟県の皆さんがいつまでも自分らしく生活して欲しい」ということで健康寿命の大切さを啓発していますが、ロコモはまさにこの健康寿命に密接に関わっているのですよね。
はい、健康寿命というのは「心身ともに自立し健康で生活できる期間」のことを指しますよね。
厚労省の平成元年版「高齢社会白書」によると、要介護者の介護が必要となった原因を見ますと、「認知症」が18.7%と最も多く、2番目に「脳血管疾患」が15.1%、
3番が「高齢による衰弱」13.8%、その次に「骨折転倒」12.5%、「関節疾患」10.2%と続きます。このうちロコモに大きく関係している「骨折転倒」と「関節疾患」を合わせますと約25%になります。
つまり要介護要支援の原因の約1/4がロコモということになります。
ロコモを予防することが健康寿命を延伸させるためにいかに大事かということがご理解いただけると思います。
Q,やっぱり長生きしたい、寿命を伸ばしたいな、という方は多くいらっしゃると思いますが、最後の5年10年に、人の手を借りなければ生活できないってなると色々苦しい思いをするケースもあると思います。
要介護・要支援になる原因の1/4を占めるというのは、ロコモ予防がいかに重要かというのがよく分かりました。
今、男性の平均寿命と健康寿命の差が、平均で約9~10年、
女性の平均寿命と健康寿命の差が平均で約12~13年
くらい差があると言われています。
この差は、誰かしらの介護や介助を受けないと生活できない期間ということになります。
平均寿命と健康寿命の差が大きくなればなるほど、介護の負担が大きくなるわけですので、健康寿命を延ばして介護の負担を軽減させることが今後の医療の課題とも言えるかと思います。
Q,運動器の疾患で歩けなくなるというお話しをお聴きしましたが、以前BSNテレビ『土曜ランチ TVなじラテ。』で「フレイル対策」を取り上げたことがあります。
フレイルとロコモの違いを教えていただけますか。
そうですね、ロコモが運動能力の低下状態とご説明いたしましたが、フレイルというのは高齢者の虚弱状態、つまり体が弱ってきた状態を指します。
弱ってきたことによって病気になりやすくなったり、治りにくくなる、
また、筋肉の衰えによって要介護・要支援の一歩手前になった状態を指します。
またフレイルには身体的なフレイルの他に、気分の落ち込み状態である精神的フレイルや引きこもりなどの社会的フレイル、噛む力が低下したり、飲み込みが困難になる口腔フレイルがあり、より広い意味での虚弱状態を指します。
ロコモもフレイルも要介護・要支援の原因になるという点で似ておりますが、ロコモとフレイルの両方に該当する方も少なくありません。
Q,フレイルの時に、運動能力の低下によって、食が少なくなって栄養バランスも落ちて、さらに体が弱くなって運動機能が低下して…という悪循環が怖いとお聞きしましたが、ロコモもそうですね。
そうですね。悪循環に陥る前に早めに食い止めることは重要だと思います。
Q, 昔、‟片足立ちで靴下が履けないとロコモ“というCMを観た記憶があるのですがが、実際そうなのでしょうか?
片足立ちで靴下が履けない人は全員ロコモ、ということではないと思いますが、
ロコモが疑われる主な症状が7つありまして、その中のひとつにはありますね。
その他には、
- 家の中でつまずいたり滑ったりする
- 横断歩道を青信号で渡りきれない
- 階段を登るのに手すりが必要である
- 15分間続けて歩けない
- 2キロ程度の買い物をして持ち帰るのが困難である
- 布団の上げ下ろしなど家のやや重い仕事が困難である
この7個のうちの1つでも該当すると、ロコモの心配があると言われております。
Q,なるほど。やはりあるのですね。基本的には年配の方となるのでしょうか?
そうですね、年配の方がやはり多いと思いますが、40代くらいの若い方でも該当する方は少なくないのではないかと考えられています。
Q,そうですか。ロコモになってしまう原因は主に何なのでしょうか?
はい、大きく3つあると言われており、
「変形性腰椎症」「変形性ひざ関節症」「骨粗しょう症とそれに伴った骨折」が
三大原因疾患と言われております。
「変形性腰痛症」は腰が痛くなって長時間歩けなくなったり、背骨の神経の通り道が狭くなり、長時間歩けない症状が出ることがあります。
「変形性ひざ関節症」は膝の軟骨がすり減って痛みが出て長時間歩くことが困難になります。
そして「骨粗しょう症」に関しては、それだけではほとんど症状はないのですが、
骨粗しょう症に伴って骨折が生じてくると、歩きにくくなり、ロコモになると考えられています。
Q,国内ではどれくらの患者さんがいらっしゃるのでしょうか。
骨粗しょう症の患者は、日本では男性が300人、女性が1,000万人、
合計で約1300万人いると言われています。
さらに、骨粗しょう症の患者は毎年100万人ずつ増加していることも分かってきています。
Q,そんなにたくさんいらっしゃるのですか!なぜ女性の方がこれだけ多いのでしょうか。
- 男性と比べて女性の方が元々の骨の量が少ない、
- 閉経後の5年から10年の間に急激に骨の量が減少する
- 女性の方が男性と比べて長生きである
という3つが理由と考えられています。
Q,骨の密度が薄くなってきてると言うのは、測定しない限り気がつかなそうですが、サインのようなものはあるのですか?
そうですね、特に若い時と比べて身長が2~3センチ以上低くなった方は、すでに背骨が弱くなって潰れる「脊椎圧迫骨折」を起こしているケースが少なくありません。
背中が丸くなってきている人は注意が必要かと思われます。
ほかに
- 両親に骨折した人がいる
- 日常的に飲酒や喫煙をする
- 運動習慣がない
- 50歳以降で軽い外傷で骨折を起こしてしまった
という方も、今後の骨折の危険性が高いということが分かっています。
Q,他はなんとなくわかりますが、日常的に飲酒する、これも気をつけた方が良いのですか?
そうですね。適量を越えて飲酒することで、尿から出るカルシウムの量が増加して骨の強度が下がることがあります。
飲酒量としては1日あたり、ビールで600ml、日本酒で1.1合以上飲むと、骨折の危険性が2倍程度高くなると言われております。
また、お酒をたくさん飲まれる方は、栄養バランスが偏っていることも多いかも知れません。
Q,ではロコモ、骨粗しょう症を押さえるためには何をしていけば良いのでしょうか?
簡単に言うと、「折れにくい骨」と「転倒しない身体」この二つを作ることが大切です。
まずは食事療法です。
骨・筋肉と言うと、まずカルシウムをたくさん摂る、と考えられるかも知れません。
もちろんそれも大事なのですが、まずはタンパク質を中心としたバランスの良い食事を心がけることが重要です。
その中でカルシウムと、カルシウムの吸収を助けるビタミンDの摂取を心掛けていただきたいですね。
Q,具体的には何を食べればいいですか?
乳製品、大豆製品、肉類、魚類、卵、緑黄色野菜などをバランスよく摂るのが良いかと思います。
これが「折れにくい骨」に繋がります。
Q,そして「転倒しない身体づくり」ですね。
はい。こちらは運動療法が大事になってきます。
特に、自宅でできる運動としては日本整形外科学会で推奨している「ロコトレ」というトレーニングがあります。
Q,「ロコトレ」、まさにロコモ対策のトレーニングということでしょうか。
はい。簡単にできますので、是非やってみてください。
1つ目が片足立ちです。片足で1分ほど立った状態を維持するこういった訓練です。
転びやすい方は無理せずに壁とかテーブルに手を軽くかけながら、安全に行って下さい。
できれば右左1分ずつ、1日3回くらいやっていただけると良いでしょう。
2つ目が、立ち上がり訓練です。これは座った状態から立ち上がるという練習です。
椅子に座った状態から、スッと手を使わないで立ち上がるという練習です。
Q,日常的に立てと言われたら、机などに手を掛けて立ち上がりますが、手を使わないで、というのは意識しないと無理ですね。
そうですね。是非意識して、足の力だけで立つことを心掛けてみていただきたいと思います。
無理なくできる方に関しては、スクワットなどの運動をしていただいてもちろん結構ですので。
Q,他にも何かありますか?
いままでの2つは筋力をつける訓練になりますが、柔軟体操やストレッチによって、関節の柔軟性を維持するというのも転倒の予防には非常に重要ですね。
さらに歩行運動、有酸素運動で
足腰の強化、疲れにくい耐久性を維持する身体を作ることが大切です。
Q,なるほど。では最後にリスナーにメッセージをお願いします。
ロコモは自分の日常生活の質を下げるだけでなく、介護する自分の子供の世代の負担も増加させます。
ロコモも骨粗しょう症も早めに対策を行うことで、十分に改善が見込めます。
是非自分の日常生活を見直し、健康長寿を目指していただきたいと思います。
(2020年3月9日・16日・23日放送)