2021年7月1日放送

水素エネルギーと脱炭素社会

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二酸化炭素を出さない次世代のエネルギーとして注目されている水素エネルギーですが、コストという最大の課題から環境整備が進んでいません。水素エネルギー普及を目指す新潟県の現状を取材しました。

新潟市北区の廃棄物処理業・青木環境事業です。廃棄物の運搬などに使うフォークリフトは水素を使い動いています。最大のメリットは...。

【記者リポート】「燃料の水素と、空気中の酸素を使って生まれるのは水だけ。CO2は一切、生まれません」

水素が空気中の酸素と反応して水と電気を生む「燃料電池(FUEL CELL)」を搭載していることから、「FCフォークリフト」と呼ばれています。2018年に2台導入しました。

その時に新潟県内で初めて設置した、会社敷地内のステーションで水素を調達します。また、水素をつくるのも敷地内です。

【青木環境事業ESG推進チーム 松木英典チームリーダー】
「こちらに水をためておいて、電気を流して酸素と水素をつくります」

水を電気分解して水素をつくる。理科の実験と仕組みは同じです。そして、電気はというと...。

【松木英典チームリーダー】「廃棄物を燃やしたエネルギーを使って、まず電気をつくる。さらにその電気の中で余剰と言われるような時間帯がある」

焼却施設で発電するうちの余剰分を水分解に使うので、電気代はかかりません。ただ、水分解で大量の水素をつくるには多くの電気が必要なため、本来は莫大な費用がかかります。

青木環境事業はフォークリフト2台、水素ステーション、水分解施設の導入費用およそ2億円の一部は、国の補助金で賄いました。担当者は水素事業について「現時点では採算が取れるものではない」と話します。

【松木英典チームリーダー】「どうしても設備そのものの維持管理・メンテナンスにお金がかかる部分がありますので、そういったところがこれからの課題かなと考えています」

環境への配慮を目指して水素を使う青木環境事業。設備投資への補助や、余熱由来の電気を使えるコストカットを考えれば特殊なケースで、誰もが気軽に導入できるものではないのです。

毎年のように起こる豪雨や水害。原因とされる温室効果ガスを減らすことは、今や世界の共通命題です。去年10月には...。

【菅首相】「2050年までに温室効果ガスの排出を、全体としてゼロとする。すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言いたします」

二酸化炭素の排出量と吸収量が、プラスマイナスゼロの状態になる「カーボンニュートラル」の実現が国策となりました。経済産業省は二酸化炭素を生まない水素を脱炭素に向けての「キーテクノロジー」とし、2014年には水素社会に向けた取り組みを加速させる方針を示しました。

街の人の水素のイメージは?新潟市で聞きました。

【市民】
「クリーン、環境に優しい」
「2050年の脱炭素に向けて菅首相も言っていますけど、どんどんそういった新しい取り組みを」
「車とかそういう乗り物は、そういう水素エネルギーで動けば空気もきれいになる」

しかし、新潟県内では進捗は順調ではありません。

【記者リポート】「水素自動車に水素を充填できる県内唯一のステーションですが、まだそれほど利用台数は多くないようです」

新潟市中央区に2019年に設置され、誰でも利用できる水素の供給ステーションです。水素で動くFCV(燃料電池車)は県内に20数台あり、水素ステーションを利用するのはタクシーを中心に1日にわずか4台ほど。

さらに、東北や北陸には水素ステーションの数が極めて少なく、アクシデントに見舞われたこともある利用客もいます。

【愛知県からの利用者】「ステーションに(充填機が)1機しかないので、1機が壊れてしまうとステーション自体が停止してしまう。いざ行った時にステーションがやっていないと、もう他で入れられなくなってしまうので」

普及が進み、コストが下がり、浸透につながる。そんな変化が求められる「水素エネルギー」ですが、県の担当者は「今は普及への過渡期」だとします。

【県新エネルギー資源開発室 覚張昌一室長】「県内ではまだ1か所というところで、水素ステーションの整備が進まないと、FCV(燃料電池車)もなかなか導入が進んでいかない。やはり、水素がまだまだ値段が高いという課題があります」

1台700万円前後という価格もあり、FCVだけ見ても課題は山積みです。県はFCVを1台導入し、昨年度からの2年間で水素関連産業への支援に合計1600万円余りの予算を組みますが、普及に向けて数値的な目標は示していません。

【県新エネルギー資源開発室 覚張昌一室長】「国内外での研究開発が進んでいく必要があるという、まだそうした段階」

そんな中、5月に水素を効率的に生み出すためのある発明が発表されました。新潟大学大学院自然科学研究科で、工学博士の八木政行教授らの研究グループです。水を電気分解するのですが...。

【新潟大学大学院 八木政行教授】「酸素を出す電極があまりいいものなかったんですけれども、我々は非常に低い電圧で酸素を出せる材料を開発しました」

仕組みはこうです。水を分解すると水素と酸素が生まれます。その比率は必ず2対1。これまでは酸素が効率よく発生する材料がなく、水素をつくるには電気が多く必要でした。

ここで八木教授らが開発した材料を使うと、酸素を発生させるための電気を、理論上の限界と言われる2割削減することに成功。その分、水素を生み出す際のエネルギーの省力化につながります。この世界最高の効率性は国際学術誌にも掲載され、国際特許も出願しています。

【新潟大学大学院 八木政行教授】「水素をつくっても、二酸化炭素を出してはいけませんので...」

実は現在、エネルギー水素は天然ガスなど化石燃料から取り出すのが主流で、その際に二酸化炭素を排出します。今後、二酸化炭素と無縁の水素「グリーン水素」を、太陽光など再生可能エネルギーでつくることが本当の意味での脱炭素化につながると八木教授は強調します。

【新潟大学大学院 八木政行教授】「究極的にはやはり水素は水からとって、その時のエネルギー源は自然エネルギーですよね。段階的に少しずつグリーン(水素)にしていく。それがこれからの社会で望まれている事じゃないかなと思います」

28年と半年後、今年生まれた子が29歳になる2050年。次の世代が笑顔で暮らせる社会を作るために、今を生きる世代の対応が急がれます。

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