2021年8月19日放送
ビール酵母を肥料に 農業の新しい取り組み
新潟市北区ではビールの製造過程で生まれるビール酵母を肥料にして野菜を育てる取り組みが、若手農家を中心に広がっています。作物の収穫量の増加や品質の向上が期待される、ビール酵母に迫ります。
新潟市北区の農事組合法人「ファーム横土居」です。7月下旬、枝豆の出荷が最盛期を迎えていました。
ファーム横土居の加藤和彦さん(38歳)。2年前から枝豆やサツマイモの栽培に、ある肥料を取り入れています。それは...。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「こちらがビール酵母などを使った枝豆の畑になります」
この畑に定期的に散布しているのが、ビール酵母を活用した肥料です。ビール造りには欠かせないビール酵母。農業現場での活用は驚きの効果を生んでいるのです。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「育ちが良くて、さやの数も多い。根の張りが良くなるので、水をやる回数を減らすことができる。それによって収量も上がっている状態です」
加藤さんは2週間ごとに、ほかの農薬と一緒にビール酵母を活用した肥料を畑に散布しています。ほかに栽培方法は変えていないそうですが、枝豆の収穫量はこれまでに比べて1.4倍に増えました。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「規格外品が減って、変形したものが減るとか、一粒豆が減るとか、そういう部分でも収量が上がっている」
ビールは麦芽やホップを煮てできた麦汁に、酵母を加えてアルコールを発酵させます。発酵・熟成後にろ過し、ビール酵母を取り除いたものが商品として市場に出荷されます。
麦汁の栄養をたっぷり吸収したビール酵母は、ビタミンB群やミネラル、アミノ酸などの多くの栄養素を含んでいるのです。これを農業現場で活用することで、どんな作用をもたらしているのでしょうか。
開発したのは、アサヒビールグループのアサヒバイオサイクル社です。
【アサヒバイオサイクル アグリ事業部 北川隆徳さん】
「ビール酵母の中にβグルカンという成分が含まれているんですが、植物の病原菌にも同じ構造のものが含まれています」
酵母に含まれるβグルカンを植物に与えると、植物が病原菌に感染したと勘違いし、病気に対抗しようと根の成長が促され、強い体が作られるそうです。
【アサヒバイオサイクル アグリ事業部 北川隆徳さん】
「人間でいうとワクチンのような作用が酵母のβグルカンにあるというのが分かっていて、その刺激によって植物が根を張らせたり、免疫力を高めたり、いろいろな生理活性を引き起こすことが分かっています」
実際に加藤さんが栽培した枝豆も、細かい根がたくさん張っているのが分かります。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「この資材は暑さもそうですが豪雨にも強くて、根がしっかり張っているので、豪雨になると一般的に根腐れを起こすが、根腐れを起こさないのでゲリラ豪雨がきても安心でいられる」
さらに加藤さんは、ビール酵母を活用した肥料を散布することで、土壌環境自体が良くなっていることを実感しているそうです。その理由についても研究で明らかになってきました。
【アサヒバイオサイクル アグリ事業部 北川隆徳さん】
「この資材は、土壌中の溶けていなかった鉄などを溶かす効果があって、それによって土壌中の微生物の種類が変わってくる。土壌の良い菌が増えると、悪い菌が住めなくなる。そうすると植物にとっても良い土壌環境になる」
ビール酵母の効果は甲子園球場でも生かされています。2019年から甲子園の天然芝の育成に、ビール酵母を活用した肥料が導入されています。芝が強く均一化されることや、芝の根が張ることでクッション性が高くなり、選手の体への負担が軽減されることなどが期待されています。
新潟市北区でも若手を中心に、ビール酵母を活用した肥料を使う農家が増えています。帆苅亮太さん(35歳)は去年の春から、ネギの栽培に取り入れています。
【帆苅亮太さん】
「この暑さでも負けないくらいしっかり育っているので多分、心配ないと思います」
帆苅さんが育てる白ネギは暑さに弱い品種で、30℃以上の暑さが続くなどすると軟腐病という病気が出やすいといいます。しかし、新しい肥料を使ったことで、目に見える変化が生まれているのです。
【帆苅亮太さん】
「ブルームという白い粉で、触ると取れる。ビール酵母を使うことで、ネギが自分で暑さから身を守ろうとして出している粉、これがあった方が農薬を使わなくても自分で身を守っている」
帆苅さんは例年8月中旬にネギの初収穫を迎えますが、ビール酵母を活用した肥料を使うことで生育が良く、今年は1か月以上前倒し7月上旬から収穫が始まりました。ネギの根の張りも、やはり良くなっています。
【帆苅亮太さん】
「驚きです。逆に根の張りが良すぎて、収穫作業は逆に大変になっているかなって思いますが」
帆苅さんは現在、ほかの農家とともに、県内産のネギが品薄となる5月・6月に向けて出荷できるような栽培方法に挑戦しています。
【帆苅亮太さん】
「もともとは茨城県が5月・6月のネギはメインで作っているんですけど、新潟県でも今後、作れるぞというところをやっていきたい」
【帆苅亮太さん】
「ビール酵母を使うと新しい作型もでてきて、価格決定権が持てるようになりますからね」
8月5日、加藤さんや帆苅さんは、ビール酵母を活用した農作物の今後の展開について話し合いました。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「砂地で作ったものって多分、関東圏では朝採れの野菜はほとんどないと思う」
【JA新潟市木崎営農センター 窪田和也係長】
「今年中に販路の道筋ができれば、来年の作付けに向けて仲間を募ってやっていけるのではないか」
販路拡大のため今、地元の農家とJAが共に取り組んでいるのが、農産物の新幹線輸送です。朝収穫した野菜を新幹線で高速輸送し、首都圏で新鮮なまま販売します。
さらに、ビールの副産物であるビール酵母を使った環境に優しい循環型農業を前面にアピールして、ほかの農産物と差別化したい考えです。
【JA新潟市木崎営農センター 窪田和也係長】
「ビール酵母を使って、生産の現場としては良くなっているという評価ですので、農協としては販売の部分をバックアップして、販路を拡大していければと思っている」
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「味には自信があるので、一度食してもらえればリピーターになってもらえると思っています」
新たな取り組みに挑戦する農家たち。農業現場でのビール酵母の活用は収量の増加や品質向上だけでなく、地域農業の活性化という思わぬ効果も生んでいるようです。
新潟市北区の農事組合法人「ファーム横土居」です。7月下旬、枝豆の出荷が最盛期を迎えていました。
ファーム横土居の加藤和彦さん(38歳)。2年前から枝豆やサツマイモの栽培に、ある肥料を取り入れています。それは...。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「こちらがビール酵母などを使った枝豆の畑になります」
この畑に定期的に散布しているのが、ビール酵母を活用した肥料です。ビール造りには欠かせないビール酵母。農業現場での活用は驚きの効果を生んでいるのです。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「育ちが良くて、さやの数も多い。根の張りが良くなるので、水をやる回数を減らすことができる。それによって収量も上がっている状態です」
加藤さんは2週間ごとに、ほかの農薬と一緒にビール酵母を活用した肥料を畑に散布しています。ほかに栽培方法は変えていないそうですが、枝豆の収穫量はこれまでに比べて1.4倍に増えました。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「規格外品が減って、変形したものが減るとか、一粒豆が減るとか、そういう部分でも収量が上がっている」
ビールは麦芽やホップを煮てできた麦汁に、酵母を加えてアルコールを発酵させます。発酵・熟成後にろ過し、ビール酵母を取り除いたものが商品として市場に出荷されます。
麦汁の栄養をたっぷり吸収したビール酵母は、ビタミンB群やミネラル、アミノ酸などの多くの栄養素を含んでいるのです。これを農業現場で活用することで、どんな作用をもたらしているのでしょうか。
開発したのは、アサヒビールグループのアサヒバイオサイクル社です。
【アサヒバイオサイクル アグリ事業部 北川隆徳さん】
「ビール酵母の中にβグルカンという成分が含まれているんですが、植物の病原菌にも同じ構造のものが含まれています」
酵母に含まれるβグルカンを植物に与えると、植物が病原菌に感染したと勘違いし、病気に対抗しようと根の成長が促され、強い体が作られるそうです。
【アサヒバイオサイクル アグリ事業部 北川隆徳さん】
「人間でいうとワクチンのような作用が酵母のβグルカンにあるというのが分かっていて、その刺激によって植物が根を張らせたり、免疫力を高めたり、いろいろな生理活性を引き起こすことが分かっています」
実際に加藤さんが栽培した枝豆も、細かい根がたくさん張っているのが分かります。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「この資材は暑さもそうですが豪雨にも強くて、根がしっかり張っているので、豪雨になると一般的に根腐れを起こすが、根腐れを起こさないのでゲリラ豪雨がきても安心でいられる」
さらに加藤さんは、ビール酵母を活用した肥料を散布することで、土壌環境自体が良くなっていることを実感しているそうです。その理由についても研究で明らかになってきました。
【アサヒバイオサイクル アグリ事業部 北川隆徳さん】
「この資材は、土壌中の溶けていなかった鉄などを溶かす効果があって、それによって土壌中の微生物の種類が変わってくる。土壌の良い菌が増えると、悪い菌が住めなくなる。そうすると植物にとっても良い土壌環境になる」
ビール酵母の効果は甲子園球場でも生かされています。2019年から甲子園の天然芝の育成に、ビール酵母を活用した肥料が導入されています。芝が強く均一化されることや、芝の根が張ることでクッション性が高くなり、選手の体への負担が軽減されることなどが期待されています。
新潟市北区でも若手を中心に、ビール酵母を活用した肥料を使う農家が増えています。帆苅亮太さん(35歳)は去年の春から、ネギの栽培に取り入れています。
【帆苅亮太さん】
「この暑さでも負けないくらいしっかり育っているので多分、心配ないと思います」
帆苅さんが育てる白ネギは暑さに弱い品種で、30℃以上の暑さが続くなどすると軟腐病という病気が出やすいといいます。しかし、新しい肥料を使ったことで、目に見える変化が生まれているのです。
【帆苅亮太さん】
「ブルームという白い粉で、触ると取れる。ビール酵母を使うことで、ネギが自分で暑さから身を守ろうとして出している粉、これがあった方が農薬を使わなくても自分で身を守っている」
帆苅さんは例年8月中旬にネギの初収穫を迎えますが、ビール酵母を活用した肥料を使うことで生育が良く、今年は1か月以上前倒し7月上旬から収穫が始まりました。ネギの根の張りも、やはり良くなっています。
【帆苅亮太さん】
「驚きです。逆に根の張りが良すぎて、収穫作業は逆に大変になっているかなって思いますが」
帆苅さんは現在、ほかの農家とともに、県内産のネギが品薄となる5月・6月に向けて出荷できるような栽培方法に挑戦しています。
【帆苅亮太さん】
「もともとは茨城県が5月・6月のネギはメインで作っているんですけど、新潟県でも今後、作れるぞというところをやっていきたい」
【帆苅亮太さん】
「ビール酵母を使うと新しい作型もでてきて、価格決定権が持てるようになりますからね」
8月5日、加藤さんや帆苅さんは、ビール酵母を活用した農作物の今後の展開について話し合いました。
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「砂地で作ったものって多分、関東圏では朝採れの野菜はほとんどないと思う」
【JA新潟市木崎営農センター 窪田和也係長】
「今年中に販路の道筋ができれば、来年の作付けに向けて仲間を募ってやっていけるのではないか」
販路拡大のため今、地元の農家とJAが共に取り組んでいるのが、農産物の新幹線輸送です。朝収穫した野菜を新幹線で高速輸送し、首都圏で新鮮なまま販売します。
さらに、ビールの副産物であるビール酵母を使った環境に優しい循環型農業を前面にアピールして、ほかの農産物と差別化したい考えです。
【JA新潟市木崎営農センター 窪田和也係長】
「ビール酵母を使って、生産の現場としては良くなっているという評価ですので、農協としては販売の部分をバックアップして、販路を拡大していければと思っている」
【ファーム横土居 加藤和彦さん】
「味には自信があるので、一度食してもらえればリピーターになってもらえると思っています」
新たな取り組みに挑戦する農家たち。農業現場でのビール酵母の活用は収量の増加や品質向上だけでなく、地域農業の活性化という思わぬ効果も生んでいるようです。